『ありがとうの気持ち』
2025.02.14
毎回の授業後にお子様をお迎えにお越しになるお父様がいらっしゃいました。校舎の外の歩道で、いつも同じ場所でお子様を待っていらっしゃいました。授業が終わって、外までお子様と一緒に行ってご挨拶をするのですが、ある日、お父様はいらっしゃいませんでした。お子様はキッズ携帯をかけています。「わかった。自習室で待っている」と言って自習室に向かいました。その後、お父様が自習室までお迎えにいらして、「遅くなってごめんね」とお子様に言っていらっしゃいました。「遅いよぉ……」とお子様。
毎回のことなので、お子様にとっては当たり前のことになっていたのだと思います。授業が終われば、お父様が必ず外で待っていてくれる。寒い日にはコートの襟を立てて、いつも同じ場所で。それが当たり前のことになっていて、たまに遅くなると文句を言う……。そのお子様が、入試が終わった後で、お父様におっしゃったそうです。「いつもお迎えにきてくれてありがとう」と。
今年の中学入試も終わりました。毎年、入試発表のあと合格した生徒にインタビューをした映像が作られています。そこで生徒たちは「両親への感謝」を口にしています。「今まで教えてくれた塾の先生への感謝」を話す生徒もいるのですが、やはり一番は「両親」に対しての「ありがとう」です。
オリンピックでメダルをとった選手のインタビューを聞いていても、スポーツの大きな大会で優勝した選手の話を聞いていても、皆さんが必ず口にするのが「家族への感謝」です。大きな目標に向けて取り組んできて、それが終わり、結果が出て、いままでを振り返ったときにそれまでの努力や苦労の思い出とともに、支えてくれた人に思いが至るのではないでしょうか。「自分一人ではここまでくることはできなかった……」「多くの人の顔が思い浮かんで……」、そんな言葉をたくさんの選手が口にしていたのを拝見しました。
中学入試という大きな目標を乗り越えたあとで子どもたちが口にする「ありがとう」の気持ちも、スポーツ選手と同じものだと思っています。目標に向けて頑張っている日々の生活の中では、なかなか周りが見えないでしょう。ましてや、それに対する「感謝」の気持ちは起こらないものだと思うのです。夏期講習会中に毎日塾でお弁当を食べていたとしても、それを作ってくれているお母さんに「ありがとう」と思いながら食べている生徒はほとんどいないはずです。お母さんが毎日お弁当を作ってくれるのは、子どもにとって当たり前のことなのでしょう。
しかし、入試が終わって今までを振り返り、「お母さんは塾のお弁当をずっと作ってくれていたんだな」と思い返したときに、「お父さんは毎回お迎えにきてくれていたな」と思ったときに、大きな「感謝」の気持ちが自然と起こってくるものなのだと思うのです。保護者の皆様も「感謝してもらおう」と思って、毎日過ごしていらっしゃるわけではないと思いますし。
中学入試をするということは、志望する中学校への合格を手に入れることだけが大切なわけではないと思っています。もちろん、入試に合格をするための学力を身につけ、志望校の合格通知を手に入れることが最大の目標であるのは間違いありません。しかし、大きな目標に向かって真剣に取り組むという体験の中で、将来につながるたくさんのものを手に入れることができると思っています。「困難に立ち向かう力」「くじけずに前を向いて進んでいく力」など、そういった力がお子様の将来につながるのではないでしょうか。「支えてくれた周りの人たちへの感謝」という気持ちも、そのひとつだと思います。大きく困難な目標に立ち向かうからこそ、自分ひとりの力ではできないことを理解し、支えてくれる周りの人々への感謝の気持ちも湧いてくるのです。
先週の日曜日は、私の誕生日でした。母のところに赴き「ありがとう」を伝えてきました。
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