四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

「『おられます』が気になっています」

2016.04.20

最近、テレビのニュースなどで「おられます」という言葉を何度か耳にしました。『この時期、体調を崩されている方もたくさんおられますが......』というような表現です。国語を教える立場としては、とても気になる表現です。


言葉の「誤用」の代表的な例として、俗にいう「ら抜き言葉」が挙げられます。「見れる」「食べれる」「起きれる」「着れる」といった、本来であれば「れる」の前に「ら」を入れるべき表現のことです。「見られる」「食べられる」「起きられる」「着られる」が正しい言い方です。


少し文法的に解説しますと、「れる・られる」という助動詞は動詞の未然形に接続します。そして「れる」は五段活用とサ行変格活用、「られる」は上一段活用・下一段活用・カ行変格活用に接続することになっています。さらに、「れる・られる」には「受身・可能・自発・尊敬」という4つの意味が存在するのですが、厳密にいうと「れる」は「可能」の意味で使われることは少ないのです。


具体的に考えてみます。五段活用の動詞として「書く」「走る」の二つの例を挙げてみましょう。それぞれの動詞の未然形は「書か」「走ら」です。ここに「れる」をつけると、「書かれる」「走られる」という表現になります。可能の意味では使われないのがおわかりいただけますでしょうか。「難しい字を書くことができる」という意味で、「難しい字を書かれる」とは言わないですよね。


一方で「先生が黒板に図を書かれる」というように「尊敬」などの意味では使われるわけです。

それでは、五段活用の動詞で「可能」の意味をあらわす場合はどうするのかというと、「可能動詞」というものに置き換えるのです。可能動詞は、もともとの動詞の活用語尾をエ段に変えて「る」をつけた形です。「書く」ならば「書け+る」、走るならば「走れ+る」となります。この「書ける」や「走れる」は、五段活用動詞に助動詞がついたわけではなく、一語の下一段活用動詞となるわけです。特に「走る」のように活用語尾がラ行の場合、見分けるのが難しくなっていますので、注意が必要です。また少数ですが、「行く」のように「れる」をつけても「可能」の意味になる五段動詞も存在しています。「行かれる」(行く+れる)、「行ける」(可能動詞)のどちらでも「行くことができる」という意味になるのがおわかりいただけると思います。


さて、「ら抜き言葉」に話を戻しましょう。「られる」がつく動詞(上一段・下一段・カ変)には「可能動詞」は存在していません。「られる」をつけることによって、「......できる」という「可能」の意味をはっきり表すことができるからだといわれています。


しかし最近では、「食べれる」「起きれる」「来れる」という「ら抜き言葉」の表現も、五段活用の「可能動詞」と同じように、上一段・下一段・カ変の「可能動詞」形として認めてもよいのではないか、という意見が出てきています。言葉は時とともに変化するものですし、話し言葉としては一般的になってきていますから、私もそれほど目くじらを立てなくてもよいのではないかと、思っています(国語の解答として書く場合は別ですが...)。


ところが、今日の記事の題名として書かせていただいた「おられる」という表現は違います。この表現には根本的に大きな誤用が二つも含まれているのです。「おられる」を分解してみると、「おる+れる」という二つの言葉になります。一般的に、「おる」は「いる」という動詞の謙譲表現(謙譲語)として用います。そして、「れる」はここでは「尊敬」の意で使われています。つまり、ひとつの表現の中に、「謙譲」と「尊敬」という二つの相反する敬語表現が混在しているわけです。これはあきらかにおかしな表現であることがおわかりいただけると思います。


では、「おる」が尊敬語に直せば正しい日本語になるのでしょうか。「おる(いる)」の尊敬語にあたるのは「いらっしゃる」ですが、そこに尊敬の「れる」をつけてみると、「いらっしゃられる」...。これも、明らかにおかしな表現です。一つの語に、同じ種類の敬語表現を二つ以上重複してつけるのは、「二重敬語」と呼ばれる誤用です。たとえば「食べる」という言葉の尊敬表現としては「めしあがる」「お食べになる」「食べられる」という3つがありますが、これらを複数組み合わせるような表現、「お召し上がりになる」「召しあがられる」「お食べになられる」などは「誤用」となるわけです。


こんな話を生徒にすると、「そんなに細かいことを言わなくても、伝わればいいじゃん」というような顔をする生徒もいます。私も性格的にはあまり細かい方ではありませんので、その気持ちもわからなくはないのですが、やはり正しい日本語をしっかり理解し、必要な時に使えるようになっておくことは、受験へ向けても、さらには社会に出てからも必要なことだとも考えています。

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