四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『白夜紀行 ~日本語の難しさ②~』

2024.04.26

スウェーデン人の友人と会話したときの話です。日本語についてはかなり使いこなせる女性だったのですが、質問があるということでしたので、話を聞いてみました。彼女が取り出したのは北欧旅行のリーフレットでした。表には大きく「白夜紀行」と書いてあります。この言葉の意味を教えてほしい、というのが質問の趣旨でした。


北欧出身ですから、「白夜」の意味はもちろんわかると思いましたので、「紀行」について説明するところから始めました。「『紀行』というのは、ほとんど『旅行』と同じで『travel』という意味だと思っていい」と説明したのですが、それはもう調べてわかっていると彼女は言い、さらに「白夜」の意味も理解しているということでした。彼女が聞きたかったのは、「白夜」をなぜ「びゃくや」と発音するのか、ということだったのです。思いがけない視点からの疑問でしたので、私は少し考え込んでしまいました。そして彼女は続けます。


「『白夜』は『はくや』と読むのだと思っていた。たしかに英語でも『white night』ということもあるし、北欧の冬の空は明るくはないけれど白く見える。日本語らしいよい表現だと思っていた。しかし、読み方が納得いかない。『びゃく』という読みは『百』だったらわかるけれど、意味は全く違うことになるはずだ。『百夜』と書くと『a hundred night』という意味になるし……」というようなことを日本語と英語を交えながら(私はスウェーデン語については全くわかりませんので)話してくれました。


私はまた考え込んでしまいました。「百」は「白」がもとになってできている形成文字であるという点は思いついたのですが、その答えが彼女の質問に正しく答えているものではないでしょうし、その説明をしても彼女をさらに混乱させるだけのように思いました。結果として、「うーん、たしかにそうだね。その辺が日本語としても難しいところなんだよね。その言葉を覚えるしかないのかな」というようなことしか言えず、そこから熟字訓の話をしていきました。「白夜」は厳密にいえば、熟字訓ではないのですが、同じように「熟語」に対して特殊な訓読みをするものと考えると理解が進みやすいと思ったからです。


「熟字訓」という言葉はご存じの方も多いと思います。古くから使われていた和語に漢字の熟語をあてはめたものが多いと言われています。ですから、熟字訓の場合はどの漢字(単漢字)をどう読むか、という考え方はできずに、一つの熟語に対して一つの読みがある、と考えることになります。この熟字訓は常用漢字表にも記載されております。常用漢字表には「本表」のほかに「付表」があり、その「付表」に記載されているので「付表の語」と表記されている国語の教科書やテキストもあります。熟字訓の具体例をご紹介しましょう。


「昨日(きのう)・今日(きょう)・明日(あす)・明後日(あさって)」「今朝(けさ)・今年(ことし)」など、日常でもよく使われる言葉も熟字訓です。
「一人(ひとり)・二人(ふたり)」「一日(ついたち)・二日(ふつか)」「二十歳(はたち)」などの数詞もそうなのです。
「時計(とけい)・眼鏡(めがね)・部屋(へや)・風邪(かぜ)・景色(けしき)」なども熟字訓です。
この熟字訓も国語知識の一つとして、中学入試に出題されることもまれにあります。「時雨・山車・為替・日和・名残・雪崩」などは、入試問題でも見たことがあります。


熟字訓に代表されるように、日本語の難しさは「例外」的な要素の部分だと思っています。規則やルールがカチッと固まっていて、そこから逸脱することが少なければ理解し、習得するのは比較的容易だと思います。しかし、日本語には例外的な要素が比較的多くあります。


文の基本構造において、日本語を英語文型的に表してみると、「S—О—C—V」型と考えることができます。英語や中国語は主語(S)の直後に動詞(述語・V)がくるのに対して、日本語は述語が文末にきます。それは一つのルールとして理解すればよいのですが、問題は「省略」が他言語と比較をすると頻繁に行われることなのです。特に主語がよく省略されます。この点も外国人が「日本語の難しさ」を感じるポイントの一つだと言われています。


主語という点で考えると、日本語の一人称・二人称の多さも「むずかしさ」を感じる点だと言われています。英語では一人称は基本的に「I」であり、二人称はどんな相手でも「you」となります。しかし、日本語では一人称だけでも「私・ぼく・おれ」などは一般的ですし、「わし・あたし」なども普通に使われます。さらに、よく「先生言葉」と言われるのですが、教師や講師は自分のことを、「先生」と呼ぶこともあります。
「今日は先生も早起きしたよ」という表現の「先生」は話者を指していることがお分かりいただけると思います。我々は日常的に使っていますし、生徒たちも違和感を覚えていないようですが、かなりの例外的な表現なのです。


二人称でおもしろいのは(というより、海外の方が混乱するのは)、俗にいう「親族呼称」という日本語的表現です。ご主人に対して「パパ」と呼びかける習慣をお持ちの方も多いのではないでしょうか。もしくは保護者の皆様のご両親に対して、「おじいちゃん・おばあちゃん」と皆様が呼びかけることも……。これも外国人から見ると不思議な呼び方なのです。


4月28日(日)から早稲田アカデミーでも連休期間とさせていただきます。それに伴い、このブログも「おやすみ」とさせていただきます。次回は5月8日(水)に更新させていただく予定となっておりますので、よろしくお願いいたします。

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