四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

「扉」

2014.01.29

もう10年以上前の話になります。

1月31日の夜8時頃に、校舎に受験生のお母様から電話がありました。第一志望の入試を翌日に控え、その日も夕方まで自習室でがんばっていた女の子のお母様だったのですが...。


「先生! 娘が明日受けたくないって言い出して」

お子様は電話には出たくないとのことでしたので、何とか校舎までお連れいただけないかとお話ししました。


電話を切ってしばらくしてから、お母様とお子様が校舎に来られました。面談室に入るとすぐに、彼女の懺悔がはじまりました。出された宿題が終わらずに友達に写させてもらった、計算テストで隣の子の答案を写したこともある、先生に提出した過去問は実は二回目だったので点数がよくて当たり前なんだ、...などなど。そんな自分が明日受験をしても合格できるとは思えないと、号泣しながら打ち明けてくれました。


小学生が入試へ向けた学習を進めていく上では、そんなことは誰しもが経験していることです。ただ、彼女は入試前日の緊張感と不安の中で、そのようなことが思い出されてきて、とても耐えきれなかったのだと思います。


彼女が私とその話をしている間、お母様はただ黙ってずっと彼女の手を握っていらっしゃいました。


私も言葉を尽くして励ましました。彼女にいつもの笑顔が戻り、校舎を後にしたのは22時を過ぎていました(早稲田アカデミーのルールでは、生徒を校舎で対応するのは最長22時までとなっていますので、このケースは入試直前期の特例対応です。ご了解ください)。


翌朝、彼女のことを志望校の校門前で待っている間、どのような言葉を掛ければよいのかを考えていました。多くの受験生が通り混雑する中、一人の生徒を長く引きとめておけるものではありません。一言で何かを伝えなければと、いろいろな言葉が頭の中を巡っていたのを覚えています。


彼女がやってきました。昨日の涙のせいか、腫れぼったい瞼をしていました。しかし、その下の瞳はキラキラと輝いていました。何かが吹っ切れたような。いろいろ考えていたのに、口から出たのは「目の前の問題だけに集中して」という一言だけ。彼女はうなずく代わりに、握手の手に力を込めて、ギュッと握り返してくれました。彼女が校門を入っていく後ろ姿を見ながら、肩の力が抜けていくのを感じました。


中学入試を考えるときに、「扉」をイメージすることがあります。大きくて頑丈な扉にお子様が手をかけて、必死に開けようとしている。少し開いたその隙間から見えるものは、明るい未来であり、輝かしい中学校生活であり...。見た目では子供が一人では開けられそうにない「扉」。でも、その後ろではお父様・お母様が、お子様を後押ししている。そして、我々も。大人が「扉」に直接手を掛けて開けてあげれば楽なのかもしれません。しかし、それは決してできないこと。だから、お子様の背中を押してあげることで、少しでも力になれればと。


前日に泣いていた彼女は、見事に合格してくれました。彼女の不安を取り除き、合格に導いたのは、きっとお母様の手の温もりだったと思います。手から自分を応援してくれるお母様の気持ちが伝わり、自分が一人ではないと感じられた彼女は、不安な気持ちから解放されたのでしょう。


すでに入試が始まっている地域もありますが、首都圏では一番多くの学校の入試が行われる2月1日まで、残り二日間。様々な気持ちが交錯する期間だと思います。


受験生保護者の皆様も、期待と不安が入り混じった日々を過ごされていることと思いますが、受験生のお子様にぜひお伝えいただきたいのは、皆様がお子様を応援する気持ちです。受験会場で一人になったときに、「でも...大丈夫!」とお子様が思えるような、自分の背中をお父様・お母様が押してくれていると思えるような、そんな接し方をしてあげてください。

同じテーマの最新記事

2017.07.07 『この夏を成功させる5つの方法 ~第2回クローバーセミナーより~』
2017.07.05 『夏をなめるな。』
2017.06.30 「国語の学習に関して③ ~記述力・表現力~」
2017.06.28 「国語の学習に関して② ~読解力とは~」
資料請求はこちら