四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『「おられる」という言葉』

2020.06.05

数年前に『「おられます」が気になっています』という記事を書かせていただきました(調べてみたら2016年の4月の記事でした)。その記事では「おられます」という表現は日本語としては間違っているという話を文法的に書かせていただいたのですが、最近もテレビなどで頻繁に耳にするので、単に「誤用」と決めつけるのではなく、もう少し考えてみました。


まずは簡単に前回記事の復習から。中学入試へ向けた国語のテキストには、「おる」は「『いる』の謙譲語」と書かれています。そして「れる」は助動詞で「受身・自発・尊敬・可能」の4つの意味を持っているとなっています。「おられる」という表現で使われている「れる」は一般的には「尊敬」の意味となるはずですので、「おられる」という表現は「謙譲語」(自分や身内に使うへりくだる表現)に「尊敬語」(目上の人間に使う敬意を表す表現)がついているという、「矛盾」した表現となるわけです。そういった点から、前回の記事では「日本語としては間違い」と書かせていただきました。


インターネットなどで調べてみると、「おられる」にはいろいろな考え方があるようです。「関西地方では『おる』は『いる』の意味で一般的に使われているので、『おられる』という表現も間違っていない」という記事がありました。たしかに関西圏では「明日は家におるの?」「うん、おるよ」といった会話も普通に使われているようですが、それはあくまでも「話し言葉」というレベルのようにも思うのです。


皆様も最近、新型コロナウイルス関連の報道で「おられます」という表現を耳にされたことはありませんでしょうか。記者会見の中で政治家の方が使われていたり、感染症の専門家の方がテレビのコメントなどで使っていたりするのを聞くことが多いと、個人的には思っています。


次のような表現について、皆様はいかがお感じになりますか。違和感がある表現はございますか。
①「講師室に太田先生がおられました。」
②「もしもし、●●様のお宅ですか。お父様はおられますか。」
③「外出自粛要請の中で、テレワークを開始された方もたくさんおられますが……。」


私は①と②に関しては、違和感を受けます。③に関しては、最近よく聞くことが多くなっているので、あまり感じなくなってきました。


ここからは、完全に私の個人的な意見(思いつき)なのですが、③の表現については、ある種の独特な言い回しになりつつあるのかとも思うのです。言ってみれば「政治家ことば」のようになっているのではないでしょうか。


「言葉は生き物」と言われることがあります。昔は使われなかった言葉や表現が、一般的になるということはよくあります。その意味合いが変わってくることもよくあります。また、立場や職業特有の言い回しなどがあることも知られています。


「先生ことば」と言われるような表現があるのをご存知でしょうか。たとえば教室全体が騒がしいときに注意をする言葉を考えてみます。「静かにしなさい」「静かにしろ」という命令形を使う表現があります。ただ、この表現は「命令口調」になってしまうので、かなり厳しく感じられます。「静かにしろ」という言葉にいたっては、その語調にもよるのですが、塾の教室の中では好ましくない表現だと個人的には思っています。実は「静かにする」という言い方があります。文法的には終止形を使っていますので文字にしてしまうとイメージが伝わりにくいのですが、こんな風に想像してみてください。騒がしくなっている教室に入って、先生が指を口にあてながら「はい!静かにする!」と声をかけると生徒たちは口を閉じる……。この表現が「先生ことば」と言われる表現です。


さて「おられる」についての話に戻ります。先ほどの「おられる」の例の中で私が違和感を持った①と②は特定の個人に対する表現だということにお気づきになられたでしょうか。そして③は比較的多くの「不特定多数」に対する表現です。例えば政治家が「国民」を対して発言するとき、その国民には自分も含まれているので、ある意味「身内」に対してということもできます。そう考えれば「謙譲表現」を使うのもあながち間違いとは言い切れないと思うのです。しかし、そういった国民に対しても「敬意」を表するために「れる」という「尊敬表現」も併用している……そんな背景の中でよく使われている言葉になっているのかとも思うのです。単なる「尊敬語」として使われているのではなく、少し微妙なニュアンスが含まれている表現だと思い始めています。


ただ、やはり中学入試学習における「敬語」の学習の中では「正解」にはならない表現だとご理解ください。

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