四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『入試問題から考える② ~国語の出典~』

2026.02.06

この原稿を書いているのは、2月3日です。首都圏の中学入試はまだ続いています。すでに進学先を決めた生徒も多くいますが、まだ挑戦し続けている受験生もいます。私も最後まで、応援し続けていきたいと思います。


入試を終えて、校舎に来てくれる生徒が多くいます。今日解いた入試問題を持って、興奮冷めやらぬ様子で「この問題はこうだった」「ここはちょっと自信がない」……などなどを話してくれますので、一緒に問題を考えたり、励ましたり、という時間を過ごしています。


この時点では、まだすべての学校の問題を見ているわけではありませんので「全体的な傾向をつかむ」というわけにもいきませんが、ここまでで私なりに見た「国語の出典」について、少し書かせていただければと思います。全体的な「今年度の入試傾向」は、早稲田アカデミーで行われる「中学入試報告会」で問題分析担当よりお話しさせていただきますので、そちらに譲りたいと思います。


「ミシマ社」という出版社をご存じでしょうか。大手の出版社ではなく、三島邦弘さんという方が2006年に設立した「ちいさな総合出版社」で、書店との直接取引を中心とした独自のスタイルで出版を続けている会社です。実は、今年の開成中と桜蔭中の国語では、このミシマ社に関連する文章が出題されました。


桜蔭中では、ミシマ社が発刊している『ちゃぶ台』という総合誌に掲載された、歴史学者の藤原辰史氏へのインタビュー記事が出題されていました。開成中では、石井美保氏のエッセイが出題されているのですが、この文章はミシマ社の「みんなのミシマガジン」というウェブマガジンで連載されていた「島の底、風のしるし―戦争を聞き継ぐ人類学」という作品なのです。この藤原辰史氏と石井美保氏には、他にも共通点があります。お二人とも、同じ京都大学人文科学研究所の教授でいらっしゃるのです。


開成中で出題されたのは、先ほど紹介した石井氏の連載の第一章である「石畳の小径」という文章です。この連載は、第二次世界大戦で戦地となった沖縄集落が題材となっています。開成中で出題されている問題も、やはり戦争が背景にあるものとなっています。先日の記事で書かせていただいた灘中の問題もそうなのですが、やはり現在の世界では「戦争」が各地で起こっており、危機的な状況にある地域も存在することから、「戦争」がテーマとなる文章の出題となったのではないでしょうか。女子学院中で出題された平松洋子氏の「母の金平糖」という作品も、『父のビスコ』に所収された、第二次世界大戦の戦中から戦後までについてのエッセイになっています。


また、災害に関する文章も複数で出題されている印象です。海城中で出題された上村裕香氏の『ほくほくおいも党』に収録されている「康太郎と雨」という一編は、主人公が東日本大震災のボランティアに参加するという内容です。駒場東邦中で出題された荒木あかね氏の「天使の足跡」という作品は、能登半島地震支援のためのチャリティ小説企画として編纂された『あえのがたり』というアンソロジーに収録されている作品です。この小説には地震で被災された方などは出てきませんが、亡くなった父親とペットのミニブタのためにお盆の準備をする娘と母の物語であり、「死別」がテーマになっている、そんな作品でした。


出題文のテーマが多様化している印象を持っています。ひと昔前(20年ほど前まででしょうか……)は、「死別」というテーマが中学入試で出題されることは少なかったように記憶しています。受験生と同年代くらいの登場人物が、いろいろな経験をしていくなかで、「葛藤し、成長していく」、そんな作品が多かったイメージです。そういう意味では、出題される作品も作家にも、「流行」のようなものがありました。しかし、いまは作品テーマも多様化し、それによって筆者・作者も多様化しているように思っています。


武蔵中で出題された、朝比奈秋氏の『植物少女』は、娘の出産時に脳出血を発症し、そこから植物状態となっている母を、小学5年生の娘の視点から描いている作品です。作者は現役の医師で、その視点からの作品になっています。渋谷教育学園渋谷中で出題された『臨床のスピカ』は、作者・前川ほまれ氏の看護師時代の体験から書かれた作品です。「スピカ」は、病院で患者と交流する犬の名前です。最近ニュースで取り上げられていたのを見たのですが、「動物介在療法」という治療の一環のようです。


中学入試らしいテーマだと思ったのは、青山学院中で出題された髙田郁氏の『星の教室』という作品でした。友人との確執から中学校を卒業していない主人公が、夜間中学に通うなかで成長していく……というテーマになっています。今の時代らしいと感じたのは、その夜間中学で出会う人々が非常に多様であるという点です。戦争で中国残留孤児となった高齢の女性、やはり戦災孤児となった初老の男性、ベトナムからきている女性、高齢の在日韓国人女性など。


「中学入試で出題されたから」という理由からではなく、続きを読んでみたいと思う作品が今年も多くありました。皆様もご興味のある作品がありましたら、ぜひお手に取っていただければと思います。

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