
『「むずかしい」という言葉は使わない』
2026.03.11
中学受験へ向けて小学生を指導するのは、中学生や高校生を指導するよりも難しいと感じることがあります。単に学習内容を教える、というだけでなく、より幅広く生徒を見て考えることが必要だと思うからです。精神的な成長過程にある小学生に対しては、大人にとって「よい」とされている学習方法や指導方法が必ずしもマッチするわけではありません。小学生に合わせた指導が必要になってくるのです。
中学受験へ向けた進学塾で扱う学習内容は、お子様の成長段階を考えると、「むずかしい」内容になります。大人にとっては簡単に思えることでも、それぞれの学年のお子様にとっては高度なものです。それを教えるときには、生徒の視点や考え方に合わせて、なるべく噛み砕いてわかりやすく教えることが必要になります。当たり前といえば当たり前のことなのですが、それが意外に難しいのも確かです。ともすれば「簡単なことをむずかしく教える」ということにもなりかねません。中学受験のテキストに載っている解説や模範解答のなかには、お子様にとって「むずかしく」感じるものも含まれています。もし、お子様がそれを読んで完璧に理解できるのであれば、塾に通って「教わる」必要は特にないわけです。ですから、テキストに書かれている通りに教えてしまうと「むずかしいことをむずかしく」教えていることにもなりかねません。お子様が読んだだけではきちんと理解できない、という内容を、いかに「わかりやすく」教えるか……。私が授業を行う際に気を付けていることの一つです。
さて、ではどのように教えれば「生徒にとってわかりやすく」、もしくは「簡単に」なるのでしょうか。私は、一番大切なのは生徒の内的状態を理解することだと考えています。これから学習する単元に関して、今はどのような知識を持っており、どの切り口から説明すれば「わかる」のかを考えることから、授業の準備を進めています。また、細かい点のようですが、指導する際に使う言葉などにも気を付けています。
保護者の皆様が、ご家庭でお子様に学習アドバイスを行う際にも、ぜひ「むずかしいことが簡単になるように」と心掛けていただければと思います。どのように「噛み砕く」とわかってくれるかな……そんなふうに考えると、お子様との距離も縮まると思います。そのためには、お子様が「今考えていること」を意識しながら接してみてください。その問題を真剣に解こうとしているのか、もう面倒くさくなっていて「早く答えを知りたい」と思っているのか、そんな視点でお子様をご覧いただくのがよいと思います。
一度「むずかしい」と感じてしまうと、お子様のなかに同じタイプの問題に対する「苦手意識」が生まれてしまうことがあります。「この単元はむずかしいから、自分には無理」と思い込んでしまうと、なかなかその意識を払しょくするのは困難になってしまいます。できれば、最初の段階で苦手意識を持たずにすむように教えていきたいところです。
以前、小学5年生の基礎クラスの算数を担当していたときの話です。「速さ」「旅人算」という単元が出てきました。ご存じの方も多いと思いますが、「速さ」は中学入試で頻出の単元で、さらに出題パターンの幅が広いことから「むずかしい」といわれることの多い単元です。なかでも、「旅人算」は2人以上が登場して「出会ったり(すれ違ったり)」「追い越したり」しますし、さらに「ダイヤグラム」も登場してくるため、特に「むずかしく」感じて苦手にする生徒が多い単元です。この単元を教えるにあたり、私が最も重要視したのは「旅人算を嫌いにさせない=好きにさせる」というポイントでした。
授業や家庭学習の課題にもいくつか工夫を加えたのですが、教え方そのものは極めて「標準的」な正攻法です。ただ、一つ気を付けたのは「むずかしい」「大変」という言葉は使わずに、なるべく「簡単だよ」「教えたことを思い出せばできるよ」と声を掛け続けることでした。「さっきの問題よりもちょっとむずかしいけれどチャレンジしてごらん」という言葉は、「勉強が得意」だと思っている生徒にとっては効果的です。「よし、やってやろう!」という気持ちで真剣に考え始めます。一方で、「勉強が得意ではない」と思っている生徒、言い換えれば「勉強に対する自己肯定感」がまだできあがっていない生徒にとっては、「むずかしい」という言葉は、問題に取り組むための「ハードル」になってしまいます。「むずかしいのか、じゃあぼくにはちょっとムリかも……」と思ってしまうと、そこで頭の回転が止まってしまいます。
もう一つ気を付けたのは、演習問題の解説をするときには常に「速さの基本公式確認」から進めるということでした。どの科目のどの単元でもそうなのですが、「基礎」「土台」をあいまいにしか理解していないために、応用的な考え方ができなくなってしまうことがよくあります。もしくは応用的な考え方ができていたとしても、基礎があいまいなために、正解にたどり着けずにマルがもらえないという結果になってしまうこともあります。正解できなければ、「苦手意識」が強くなってしまうわけです。
そのクラスの生徒たちは「旅人算が好き」と言ってくれるようになりました。4週間分の学習単元のまとめ授業のときに「さぁ、次の問題はみんなの大好きな旅人算だ!」と声を掛けると「わー!」と歓声があがるようになりました。お子様の家庭学習でも、ちょっとした「声の掛け方」で問題に取り組む姿勢が変わってくることもあるはずです。参考にしていただければと思います。
- 2026.03.11 『「むずかしい」という言葉は使わない』
- 2026.03.06 『テキストのどの問題を宿題にするか……』
- 2026.03.04 『70万5809人』
- 2026.02.27 『新しい学年の学習スタイルには慣れましたか……』
- 2026.02.25 『頭脳の幹』

