『入試を成長機会と考える』
2025.11.14
早稲田アカデミーの創業社長である須野田誠が、よく話していたことがあります。「現在の日本で受験が避けて通れないものなのであれば、単に志望校に合格させるだけではなく、受験を一つの成長機会ととらえるべきだ」という話です。
大きな出来事や何かのきっかけによって人は成長し、変わっていくものです。中学入試で、自分の想いと家族の想いを背負って未来を決める試験に臨むこと、それだけでも11・12歳の少年少女にとっては大きな試練だと思います。そして、「合格」「不合格」のどちらかとなって返ってくる結果を真正面から受け止めることは、どちらの結果であったとしても、大きな気持ちの揺れを伴うはずです。また、自分だけではなく、同じ教室で目標に向かって同じように努力をしてきた仲間達のそれぞれの結果を受け止めることも……。入試までの学習や、入試の時期の経験を通して、子どもたちは確実に成長するはずです。
中学入試の学習カリキュラムを進めていくのは、決して簡単なことではありません。出題される問題は小学校で学習している内容からは大きくかけ離れています。大人が挑戦しても首をひねるような問題も、自分の力で解き切らねばなりません。そのためには、時間も気力も集中力も必要です。そして入試本番では、そういった学習をしてきた子どもたち同士の「勝負」になります。学校に定員がある以上、1点でも多く得点できた生徒が「合格」を勝ち取るというシステムは、11・12歳の子どもにとって酷なものであったとしても、否定することはできません。
そんな中学入試で「合格」を勝ち取るためには、強い「想い」を持ち続けることがとても大切です。「憧れの学校へ絶対に合格したい」という強い「想い」が、入試へ向けた学習を推し進めていく原動力になるはずです。その「想い」がなければ、壁にぶつかったときに乗り越えることはできないでしょう。
高校野球で甲子園に出場した選手や、大学で箱根駅伝を目指していた選手は、就職活動をするとすぐに内定先が決まると聞いたことがあります。一部の会社以外では、野球や長距離走の力が求められているのではないでしょう。大きく高い目標へ向けて強い「想い」を持ち続け、頑張り抜いたという経験が評価されているのだと思います。目標が大きければ大きいほど、高ければ高いほど、その過程における壁も大きく高くなるものです。その壁に対して逃げることなく立ち向かい、ときに跳ね返されたとしても結果として頑張り抜いたという経験は、社会に出てからも生きるということなのだと、私は考えています。この点においては入試へ向けた学習の取り組みも違いはないでしょう。
数年前、大学入学共通テストの直前に卒塾生から電話をもらいました。「自室の壁に貼ってある中学受験のときのハチマキを見ていたら思い出したので」という内容の電話でした。日本で最難関の大学を目指していたのですから、中学入試以上に高い壁がその前に立ちはだかっていたことと思います。そんなときに中学入試のときの自分を思い出したのだと言っていました。「中学校でも高校でも、大学入試に向けても勉強はしているけれど、小6のときが一番勉強していたような気がします」と言っていました。確かに大学入試の学習とは違って、精神的にも成長途上にいる小学生の受験勉強は「質よりも量」が必要な部分があります。大学入試へ向けた学習よりも、時間や量をかけることが必要な場面もあります。「あのときのことを思い出せばやりきれるような気がします」というような言葉で電話が終わりました。
中学入試をすることで得られる最大のものは、ここまで書いてきた「目標に向けて、真剣に情熱を持って、取り組み続ける経験」であると私は考えています。
入試本番を迎えるまでに、子どもたちは誰しも「なぜ中学受験をしなければならないんだろう。塾に行っていない友達は遊んでいるのに……」というような疑問や悩みにぶつかるはずです。この疑問に対して、ここまで書いてきたような「目標へ向けて取り組み続ける経験」の話をするのはなかなか難しいことですし、小学生にとっては理解しにくいことだとも思います。ただ、親や塾の講師という周りの大人はこの点を考えて、子どもが目標から目を背けないように支えていくことが大切なのだと思っています。そして、目標から逃げてしまうというような経験をさせてはいけないのだとも強く考えています。
- 2025.11.14 『入試を成長機会と考える』


