
『ニンジンが嫌いな子に……』
2025.12.19
ニンジンが嫌いな子どもにそれを食べさせようとするとき、大きく分けて二つの言い方があります。一つは「残さず食べなさい!」と強制する言い方、もう一つは「ニンジンにはとても栄養があるから食べなさい」と理由を説明して納得させる言い方です。一見すると同じように思えますが、そこには大きな違いがあります。
前者は理由にかかわらず行動を強制するスタイルです。「お母さんの言うことを聞きなさい!」と親に従わせることで行動させます。これに対し後者は、子どもに「それをするとどうなるか」を理解させて納得させることを重視します。
アメリカの育児書には「子どものわがままは放置せず、譲歩しない」ということが書かれているものがあります。親子の上下関係をはっきりとさせることで、親の言うことに従わせるということのようです。「なぜそうするべきなのか」「そうしないとどうなるのか」という理由が理解できない年齢の場合などには、効果的な手法だと思います。強制されることで「なぜそうしなければいけないか」を自分で考えるようになるという指摘もあります。後者のように、「そうするべき理由(意味)」をきちんと説明してあげるのは、一見必要なことのように思われがちですが、その点を自分で考えるようになるという「成長の機会」を取り上げてしまう可能性もありうるわけです。
一方で、後者の「意味・理由を説明し納得させる」という手法のメリットは、きちんと意味や理由が理解できれば、「親が見ていないところ」でも、その行動をとるようになるという点です。「ニンジンを食べる」という例で考えれば、学校の給食で出されても残さずに食べるようになるわけです。ただ、きちんと理解できていなければ、また理解はしていても「食べたくない」という気持ちが強ければ、結局は食べずに残してしまうことも多くあるでしょう。
「嫌いなニンジンを食べさせる」という場合は、結果としてニンジンを食べるという行動だけが求められるので、どちらの方法でもその結果には大きな違いはありません。また、「何かをしてはいけない」という場合も同様です。しかし、その行動による「成果」が求められる場合には、「強制される」か「行動の意味・理由を理解している」かでは、大きな違いが出てくるはずです。勉強の場合で考えれば、おわかりいただけるでしょう。
子どもに漢字の練習をさせる場合、「5回ずつ書いて覚えなさい」というのは、前者の手法です。ここでは「5回ずつ書く」という行動と、「覚える」という結果(成果)が求められています。しかし、この手法では行動に取り組む「意欲」は高くならない可能性があります。漢字練習帳に5回ずつ書くという行動には取り組んだとしても、ただ書いているだけで、きちんと頭に入らずに(覚えることができずに)終わってしまうかもしれません。一方で、「しっかりと覚えれば、漢字テストで満点がとれるから」「次のテストで出題される範囲だから」という意味付けをして取り組ませるという手法を取り入れれば、取り組む意欲が変わってくるわけです。つまり、「行動の成果」が求められる場合は、その「行動の質」が大切なのです。同じ行動をしていても、どれくらいの意欲を持って、どのような取り組み姿勢で行っているかで、「成果」は変わってきます。
「家で机に座っている時間は長いのに、成績につながらなくて……」というご相談を保護者の皆様からいただくことが多くあります。机の前に座っている、テキストを開いて見ている、問題を解いている……というそれぞれの「行動」はとっていても、それが「成果」につながっていないということでしょう。この場合は「家庭学習の質」を見直す必要があります。「家庭学習の質」を高めるためには、一つひとつの課題に制限時間を設けたり、集中できる環境を整えたり、家庭学習を始める前に習慣をつくったり、などさまざまな方法があります。しかし、まずはなによりも、意欲的に取り組ませるために、その「行動(家庭学習)の意味」をきちんと理解させることが必要になってくるはずです。
実は、「嫌いなニンジンを食べさせる」方法には、まったく違う「切り口」もあることにお気付きでしょうか。「子どもが食べたくなるように、美味しく調理をする」という方法です。ここまでは、子どもが「嫌いなこと」「やりたくないと感じている行動」を「なんとかやらせる」という視点で書いてまいりました。ただ逆に、その行動自体を「自らやりたい」と感じさせる、という視点も、周囲の大人にとっては大切だと思うのです。
勉強に関していえば、その役割は保護者の皆様と同様に(もしくはそれ以上に)、我々進学塾の講師が担っていると考えています。そもそも、子どもにとって「新しいことを学ぶ」のは楽しいことのはずですし、「難しい問題ができた」ときの喜びはとても大きいもののはずです。勉強そのものの楽しさを伝え、できたときの喜びを引き出し、自ら学習に取り組む姿勢を育んでいくことは、講師の大きな仕事だと考えています。
早稲田アカデミーでは「本気でやる子を育てる」という教育理念のもと、日々の指導を行っています。その根底にあるのは、「目標を意識し前向きに取り組ませる」ことであり、「学ぶことの本質的な楽しさを理解させる」ことだと考えています。
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