四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『その場しのぎ』

2026.06.26

ずいぶん昔のことですが、保護者の方から次のようなご相談をいただきました。
「先日のテストのときに、うちの子の隣に座っていた生徒さんが消しゴムのカスを飛ばしてきたんだそうです。それが気になってテスト問題に集中できなかったと言っているのですが、その生徒さんに注意していただけないでしょうか」


ご相談をいただき、私はまず、テストを実施したときの座席表を確認しました。すると、そのお子様の「隣」の席には誰も座っていなかったことがわかりました。念のため前後の席も含めて確認し、当日試験監督をしていた職員にも話を聞いたのですが、消しゴムのカスを彼女の机にまで飛ばせるような生徒はいませんでした。その結果を保護者様にお伝えしたとき、「一度私がお子様とお話しさせていただけませんか」とお願いし、ご了承いただきました。当日、彼女はお母様に連れられて校舎にやってきましたが、私と二人だけで面談をさせていただきました。


初めは黙っていた彼女が、やがてポツポツと話し始めました。
「なんでこんな得点なの!?」
「この問題は宿題でできていたじゃない、なんで最後まで解けなかったの」
そんなお母様の問い掛けに答えられないことが苦しくて、「なんでできなかったの」を納得させられそうな答えを考え、つい言ってしまった……とのことでした。日ごろからとても真面目で、何かをごまかしたり、うそをついたりするような生徒ではありませんでした。しかし、「テストができなかった理由」を聞かれて、とっさに「事実とは違うこと」を言ってしまったのでしょう。


小学生の場合、こういった事例はよくあることです。「うそをついてごまかそう」という気持ちが強いわけではなく、ある種の「自己保身」的な気持ちからの言葉なのではないかと思うのです。叱られることが好きな子どもはいません。ですから、叱られそうな場面で「自己保身」的な意識が働くのは当たり前です。ある程度精神的に成長してくれば、「うそをついてもばれる」ことが理解できるようになりますし、「テストの点が悪かったこと」「集中してテストに臨めなかったこと」よりも、「うそをつくこと」の方がよくないことだとわかるようになります。しかし、まだ精神的に成熟していない子どもの場合、「今叱られる」ことを避けるために、とっさに言葉が口をついて出てしまうこともあるのです。こういったときは、「うそをついた」と言って深く追及するのは避けた方がよい場合もあると考えています。


小学生の「自己保身」には、「事実と違うことを言う=うそをつく」というケースだけではなく、「一部の事実しか言わない=事実を隠す」というケースもあります。特に友人関係のトラブルなどの場合には、よくあるケースです。例えば、生徒から「△△くんにイヤなことをされた」と相談を受けることがあります。こういった相談をするとき、多くの生徒は「だから△△くんを叱ってほしい」という気持ちを抱いています。ただ、小学生同士のトラブルの場合、片方だけに要因があるのではなく、双方の行動に伴う「感情的なもつれ」が原因となっていることも少なくありません。


以前、「A君がB君をからかった」→「B君がA君に言い返した」→「A君がB君を強く罵った」→「B君がA君の筆箱を床に投げた」という経緯で、生徒間のトラブルがありました。このとき、最初に私に相談してきたのはA君です。彼は、「B君に筆箱を投げられた」という事実だけを伝えてきました。そこだけの行動を考えれば、B君が悪いことになります。しかし理由もなく人の筆箱を床に投げるはずもないと考えて、いろいろと話を聞いたところ、そこまでの「感情的なもつれ」が見えてきたのです。初めにちょっかいを出したのが自分であることを、A君はもちろん言おうとしませんでした。


叱られることを避けるために、もしくは叱られているときに口をついて出る言葉は、「その場しのぎ」でしかないことが多いものです。「叱られたくない」「なるべく早く許してもらいたい」という意識のなかで、本来は思ってもいないことが口から出てしまう……。保護者の皆様も経験したことがあるのではないでしょうか。


塾がある日に友達と遊ぶ約束をしてしまい、お母様には塾に行くふりをして、友達と公園で遊んでいた生徒がいました。早稲田アカデミーからの欠席をお伝えする電話で事態を把握されたお母様が、遊んでいるお子様を公園で見つけて、そのまま校舎に連れていらっしゃいました。私も一緒にお話しさせていただいたのですが、厳しく叱っているお母様に対して、お子様は「もう二度と友達とは遊ばない」と言い出しました。お母様は「それをちゃんと約束しなさい!」とおっしゃったのですが、私はそれをお止めしました。小学生にとっては、「友達と遊ぶ」のも大切な時間です。そのお子様も、「もう二度と友達と遊ばなくていい」とは思っていないはずです。ただ、その瞬間は「もうこれ以上叱られたくない」「お母さんの怒りを鎮めたい」という想いから、さらには「自分が悪いことをしてしまった」という反省から、「極端なこと」を言い出してしまったわけです。そういった「その場しのぎ」の言葉を真に受けてしまうと、また「約束を守れていない」「うそをついた」とお子様を責めなければいけない事態につながってしまうこともあるはずです。


「自己保身的なうそ」も「その場しのぎの言葉」も、その背景にあるのは「悪意」ではありません。精神的に成熟して「大人」になってくれば、「すぐバレるうそ」をついたり、「できるはずのない約束」をしたりすることはなくなるでしょう。「うそ」や「約束」の先が見えるようになってくるからです。ただ、叱られることに対して「強い怖れ」や「不安感」を持っている場合、うそをついたり、その場しのぎを言ったりするという「癖」から抜け出せないことがあります。「うそ」や「ごまかし」の背景には、そもそも「不安感」があるはずです。その「不安」が大きいお子様ほど、そういった「癖」から抜け出すのには時間がかかるのです。


保護者の皆様には、お子様に「安心感」を与えてあげていただきたいと考えています。それは、「悪いことをしても叱られない」という安心ではありません。「悪いことをしたら叱られるけれど、それでも自分を認めてくれるはずだ」という意識です。言い換えれば「自分は認められている」という「自己肯定感」ともいえるでしょう。そのためには、まずお子様の気持ちを受け止めてあげることが大切だと思うのです。「子どもにうそをつかせるのは大人の責任」という言葉を聞いたことがあります。「うそをつく」という行為そのものは決して認められるものではありませんが、その背景にあるお子様の気持ちを理解し、受け止めてあげることも必要だと考えています。

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