四つ葉cafe 福田貴一 中学受験をお考えの小学生3・4年生のお子様をお持ちの保護者の方のためのブログ

『50円玉と5円玉』

2022.07.20

若いころの話です。スウェーデンのストックホルムから、フィンランドのヘルシンキまで船で行ったことがあります。バルト海クルーズと言うと、非常に贅沢な旅行に思われるかもしれませんが、「ユーレイルパス」という、ヨーロッパ各国の鉄道にフリーで乗れるパスを持っていて、それを使用するとかなりの割引が受けられた覚えがあります。


ストックホルムを夕方に出発して、ヘルシンキには翌日の午前中に到着する予定の航路です。一人旅でしたので夕食を食べた後、少し時間を持て余して甲板でボーっと海を見ていました。厳密な意味での「白夜(水平線から太陽が沈まない)」ではありませんが、夏でしたのでかなり遅い時間まで太陽が出ていました。ヨーロッパでも夏休みの時期だったためか、船の中には私と同じ年頃の学生たちが多くいたのを覚えています。そのうちの一人が私に声をかけてきました。
「僕はデンマークから来たんだけれど、君はどこからきたの?」
「日本だよ」
「遠くからきたんだね。僕はアジアに興味はあるけれど行ったことはないんだ」
そんなところから会話が始まりました。当時、北欧はいまよりも日本人旅行者は少なかったので、興味を持ってくれたのだと思います。意気投合をして、彼は私に「面白いプレゼントをあげよう」と言ってくれました。ポケットから彼が出したのはデンマークの「穴のあいた」硬貨でした。
「どうだい?珍しいだろう。デンマークには穴のあいたコインがあるんだよ。これは世界の中でもとても珍しいんだ」
私は驚きながら、自分のお財布から日本の50円玉を取り出しました。今度は彼が大きく驚きました。
「僕は、世界で穴のあいたコインが珍しいということを知らなかったから、とても驚いたよ。日本にもこんな風に穴のあいたコインがあるんだ」
私と彼は笑顔で握手を交わしながら、お互いのコインを交換しました。デンマークという国に大きな親近感がわいた瞬間でした。その後、帰国してから図書館で「世界の貨幣」というような書籍で調べてみたところ、彼の言ったとおり、「穴のあいた硬貨」は珍しいもののようでした。


以前、小4の授業で「世界中で穴のあいたお金は珍しいんだよ」という話をしたことがあります。国語のテキストで比較文化論が出題されていたときでした。日本では当たり前だと思っていることが、世界の中では違う、そんな例の一つとして話したのです。


ある生徒が、「えっ?面白い。おじいちゃんがコインを集めているから聞いてみよう」と言いました。私は「それなら、まず自分で調べてみるといいよ」そう返しました。そこからクラスの中で会話が進み、「なぜ、穴のあいたコインがあるんだろうか」という質問を投げかけてみました。生徒たちは「えっ?」という顔をしました。50円玉と5円玉には、穴があいているのは当たり前だと思っていたわけですから、そこに「理由」があるなどと考えたことはなかったのでしょう。少し時間が経ち、ある生徒が「わかった!」と手をあげました。「紐を通すためだ!」というのが彼の発想でした。


いよいよ夏休みがやってきます。どの学年でもなるべく早い時期に「学校の宿題」は終わらせてしまいましょう、とお話しさせていただいています(Onlineクローバーセミナーでもお伝えいたしました)。少し前の記事でも紹介しましたが、「学校の夏の課題」で特に非受験学年の皆様に力を入れていただきたいのは、「自由研究」と「読書感想文」です。


今回、ご紹介した「穴のあいたコイン」について研究することを考えてみましょう。まずは、研究内容(テーマ)を考えることになるでしょう。以下のようなテーマになってくるはずです。
①「日本における穴のあいた貨幣の歴史」
②「世界で穴のあいた貨幣が使われている国」
③「穴のあいた硬貨が作られた理由」
①と②に関しては「調べる」ことが中心のテーマになります。現代は図書館に行かなくても、すぐに調べられる時代です。Web上に載っている内容を、自分なりにうまくまとめることができれば良いのです。


③も調べてしまえば、簡単に終わります。ただ、ここでお子様に「考える」ことを促していただきたいと思うのです。ご紹介した生徒のように「紐を通す」という意見が出てくるかもしれません。その発想が少し突飛なものであったとしても、それを書き記すことも必要だと思います。言い換えれば「仮説」を立てさせて、それを検証するために「調べる」……そんな思考方法(手順)を身に付けさせていただきたいと考えています。


いよいよ、子どもが一番成長する季節がやってきます。充実した「夏」となるように、お過ごしください。

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